あいさつ


 「勝つべき事件は勝ち,負けるべき事件は必要以上に負けない」

 「依頼者に寄り添う弁護士」これはよく聞く言葉ですが,私の考える弁護士像とは少し異なります。

 弁護士が取り扱う事案の多くは,既に発生した過去の出来事に関するものであり,過去に起きた出来事はもはや変えることはできません。その変えることのできない過去の事実に法律を適用して解決するのが,司法のシステムである以上,本来,勝つべき事件は勝ちますし,負けるべき事件は負けるということになります。ところが,依頼者に寄り添うという言葉は,依頼者に安心感・信頼感などを与えることができるかもしれませんが,時として,負けるべき事件であるにもかかわらず,依頼者に有利な結果をもたらしてくれるという過度の期待感を持たせることになりかねません。その意味で,私は,「依頼者に寄り添う弁護士」というのは,少し違うと思うのです。

 私が目指すのは,勝つべき事件は勝ち,負けるべき事件は必要以上に負けないということです。これは一見簡単なことのように見えて,実は大変難しいことなのです。

 これを実行するには

 ① 法律の深い知識が必要

 ② 法律以外の幅広い知識が必要

 ③ 証拠によって可能な限り過去の事実を再現することが必要

となります。

1 法律の深い知識が必要

司法試験という国家試験があるくらいですから,法律の知識が必要なことは皆さんもお分かりだと思います。しかし,実際に求められている法律の知識がどういうものかというと,法律に携わる仕事をしている人以外の人たちにはなかなか分からないものです。

法律というものはありとあらゆる場面を想定して作られているわけではありません。そもそも人間の力でそのような「完璧な法律」を作ることは不可能です。そのため,実際に生じた具体的な事案に対してぴったり合った条文が見当たらないことは多く,法律で明確に定められていない部分を裁判所が解釈によって補うことで,適正な結論を導いてきたのです。その結果として,膨大な数の判例と呼ばれるものや,その判例の曖昧なところを更に補う膨大な数の裁判例が蓄積されることとなりました。これらの判例や裁判例を習得するのは,並大抵のことではありません。

そこに近時は,頻繁に法律改正がなされるようになりましたので,我々弁護士は日々一層多くの勉強が必要になっています。

2 法律以外の幅広い知識が必要

 また,弁護士に必要なのは,法律の深い知識だけではなく,医学,建築,会計・税務,業界の慣習など法律以外の分野に関する幅広い知識です。その意味で弁護士になった後の経験というのは,かなり重要なウェイトを占めます。特に企業法務は,このような幅広い知識が必要とされます。

3 証拠によって可能な限り過去の事実を再現することが必要

 このように幅広く深い知識が必要であると同時に,証拠によって可能な限り過去の事実を再現することが必要となります。そのためにはできるだけ多くの証拠が必要です。証拠と言っても嘘の証拠では意味がなく,あくまで真実に裏付けられた証拠が必要です。ところが,依頼者の方は何が有益な証拠になるのかすら判断が付かないことが多いですし,どのような証拠をどのようなタイミングで提出するかということも重要になってきます。

 これらのことを的確に処理することが,過去の事実を可能な限り再現することにつながります。